「下の部屋の人や上の階の人、左右の部屋の人にコンクリートマイクで盗聴されているかもしれない」
「盗聴器やコンクリートマイクで自分が部屋の何所にいるかを知り、部屋を移動すると移動した部屋で音を出して来る」
これは意外と良くある相談です。
こうした質問で、よく耳にするのが「足音を聞かれて場所を特定されている」と言われるのですが、はたしてそんな事が出来るのでしょうか?
まず、このコンクリートマイクの映像をご覧ください。
さてこの音は足音の様に聞こえますが、何所を歩いているか分かるでしょうか? 方向まで分かりますか?
まずは、そうした事をこの音で想像してみてください。
さて、この音の正体は?
さて、想像通りだったでしょうか?
この映像を踏まえてご説明します。
コンクリートマイクは音の振動を読み取る装置です。
振動は一ヶ所だけから出ている訳ではありません。
足音を礼に説明すると、コンクリートマイクで聞く足音は、自分の足音、隣の人の足音、1階の足音から10階の足音まで全て入り混じって聞えます。
そして、コンクリートマイクで聞える音の強弱は振動の強弱であって、距離による強弱ではありませんし、ましてや方向など分かりません。
音だけでは、遠くの大きな音と、近くの小さな音の区別が付かないのです。
つまり、コンクリートマイクで居場所を知られるなんて事は有り得ないのです。
そして何より最も近い音源は自室です。
つまり、コンクリートマイクで最も拾う音は自分の部屋の音なのです。
ここでもう1つ大切な事があります。
コンクリートマイクは耳に聞えない振動も拾うと言う事です。
例えば、自室の扇風機やエアコンはモーターやコンプレッサーが動いていますので振動が発生していますし、パソコンは内部でファンが回っていますので振動が発生しています。
そうした振動を拾ってしまうのです。
試しに、パソコンをテーブルの上に置いて起動させ、そのテーブルに耳を当てて下さい。
通常では聞こえない大きな音が沢山聞こえます。
それがコンクリートマイクが拾う音で、その殆どが自室の音なのです。
さて、声はどうでしょう?
隣の部屋や上下の階の人の会話が果たしてコンクリートマイクで拾えるのでしょうか?
確かに、コンクリートマイクで隣室のテレビの音声は聞えます。
テレビの音声が聞えると会話の声も聞えるように思えますよね。
しかし、テレビの音と人の声は同じでしょうか?
実はテレビの音声と会話の音声は、同じ声でも全くの別物なのです。
テレビの音声はスピーカーから出ています。
それはスピーカーが振動して出しているのですが、スピーカーはテレビに固定されていますので、スピーカーの振動はテレビ本体の振動となり、テレビ台から床、床から壁へと振動が伝わって行きます。
しかし、会話の声は空気の振動です。
その空気の振動が壁にぶつかり、壁を振動させます。
その伝わり方が大きな違いです。
テレビの音声は壁や床などの構造物を直接伝わる振動なのに対し、人間の肉声は空気が固形物に当って生じる為、伝わる振動の大きさが直接伝わる振動に比べると極めて小さいのです。
コンクリートマイクは壁などの振動を読み取り、電気的に増幅させる機械です。
肉声以外に振動がなければ音量を上げれば肉声も聞えますが、壁や床などの構造物には様々な振動が伝わっていますので、音量を上げるという事はそれらの振動音も同時に上げてしまいますので、殆ど聞き取れないのです。
コンクリートマイクがダメなら盗聴器ならば?との質問も寄せられますが、盗聴器はこのコンクリートマイクの映像が無い状態で聞くのと同じで音の強弱しか分かりません。
ここで映像を使用したのは、自分で体験した事が無ければ想像するしかありません。
そして何より、音だけでは何の音かを想像するしかないのです。
現実を知らない想像では何でも出来るような錯覚に陥り、無限に広がっていってしまいます。
それをどんなに言葉で説明しても、想像の広がりを止める事は出来ません。
「百聞は一見に如かず」ですので、言葉による説明よりも映像で説明した方が理解できるのです。
因みにここで使用した映像の撮影場所は、通電を止めてある貸事務所の空室ですので、自室の電化製品の振動は一切無い場所で行っています。